朝、背中が痛んだ。腰痛かと思った。一日目が経った。二日目が経った。痛みは少しずつ強さを増した。背中だと思っていた痛みが、実は脇腹だった。病院で、あらゆる検査を受けた。「腎臓結石」、担当医は言った。愕然とした……これは、ある職人と腎臓結石との、壮絶な戦いのドラマである。
♪ジャン、ジャジャンジャジャンジャンジャジャンジャン〜
風の中のスバ○ 砂の上の○河
みんな○こへ行った 見送ら○ることもなく〜
(著作権の関係上、一部伏せ字でお送りしております)
ある下町の町工場に、勤勉な職人がいた。職人の名は「名古屋薫」、ニューハーフであった。その日の朝も、普段通りにシャワーを浴び、髪の毛を乾かそうとしていた。
「ズーンッ!」
背中に鈍い痛みが走った。職人は持病の腰痛だと思った。コルセットを巻き、痛みが治まるのを待った。一日、二日と様子を見た。痛みは少しずつその強さを増した。「違う!」、職人は思った。いつもの腰痛とは痛みの場所が違った。左の腰の裏側、ちょうど腎臓のあたりだった。職人は若い頃、尿管結石を経験していた。痛さに思い当たるものがあった。次の日の早朝、職人は病院に駆け込んだ。
ニューハーフ職人には、病院の内科診察さえ壮絶なドラマであった。まず、受付で本当に自分の保険証かと疑われた。担当医には、「オシッコに血が混じってますが、最後の生理は?」と聞かれた。エコーの担当医は、「子宮が見あたらない」といってパニック状態に陥った。唯一CTスキャンの検査室では、何も起らなかった。だが、現像されたフィルムの封筒には、「♀」に大きな丸印が付けてあった。
その度に、職人は痛む横っ腹を押さえながら、「いえ、男ですから」と、か細い声で言った。しかし、生理を聞いてきた老医師は、「男ですから」と答えたにもかかわらず、「生理痛はひどい方ですか」と質問してきた。ニューハーフだということが、理解されていなかった。高齢の医師ではよくあることだった。
検査は、検尿・検便・エコー・CTスキャン・胃カメラと五種にもわたった。人間ドック並みの検査量であった。職人の病根を探り当てるため、体の隅々まで精査がおこなわれた。現代医学の最先端技術が結集され、手の空いている医師はみな「俺も力になる」と言って、助力を申し出た。病院が総力をあげた。検査は丸半日を費やし、すべての検査が終了したとき、担当医は職人に言った。
「腎臓結石ですね」
職人は愕然とした。予測していたこととはいえ、かつて経験した尿管結石の激痛が、脳裏に思い出された。さらに担当医は続けた。
「石が小さいですから、お水をたくさん飲んで自然排泄を待ちましょう」
「なんて消極的だ」。職人は思った。「これでは、いつ排泄されるか分からないぞ。長期戦になる!」。職人は覚悟し、病院を後にした。
職人が部屋に戻ると、友人のYが立っていた。「店はまかせろ。何とかする。しっかり休め」と言った。ありがたかった。Yは、手に提げていたコンビニエンスストアの袋を、黙って差し出した。袋の中にはお茶のペットボトル大瓶が二本、おにぎりが二つ、そしてヨーグルトが入っていた。友の気づかいだった。うれしかった。職人は男泣きした(?!)。
結石が小さく、痛みはそれほどではなかった。職人は痛み止めを飲みながら、じっと結石が降りていくのを待った。心がジリジリした。動きは大変ゆっくりであった。一日に数センチ。わずかずつではあったが、結石は確実に尿管を移動していた。職人は、ジワリジワリと動いていくその痛みを、左手でさすりながら、ただひたすら、待ち続けた。持久戦だった。二日間が過ぎ、痛みは下腹部の膀胱(ぼうこう)直前まで移動した。
「よし、もう少しだ、切り抜けるぞ」
職人は思った。
しかし、このとき、波乱が起きた。思いも寄らぬ、激しい腹痛であった。職人は戸惑った。慌てて痛み止めを服用した。「腹痛時に服用。一回一錠」。病院の処方で持ち帰った痛み止めだった。「まだ二錠残っている!」。職人は一錠飲んだ。数時間、様子をうかがった。薬は効かなかった。薬の使用間隔は最低四時間以上。職人は限度ギリギリで二錠目を飲んだ。「薬よ、効いてくれ!」。職人は祈るように待った。二錠目も効き目はほとんどなかった。むしろ、ますます痛みの強さが増していた。
「よし、アレを使おう!」職人は決意した。「ポルタレン」。坐薬(ざやく)だった。「本当に痛いときだけ使って下さい」。調剤士は薬を渡しながらそう言った。それほど強力な痛み止めだった。もし、このポルタレンが効かなかったら、もう使える薬はない。まさに、最後の手段だった。
職人はポルタレンを取り出した。激しい腹痛に耐えながら、職人はその坐薬をおしりの穴にあてがった。「よし!」。職人は指を押し込んだ。しかし、指は第一関節まで入って止った。力不足だった。腹痛のため、力が入らなかった。「だめだ。この位置では不十分だ。押し込まなくては!」。作業は困難を極めた。職人は焦った。
押し込もうとするが力が入らない。職人は、お尻の穴に人差し指の第一関節を入れた状態で、身動きが取れなくなってしまった。激しい腹痛に耐えながら、職人は考えた。「なにか方法があるはずだ。落ち着け!」。直腸内のポルタレンが、体温で溶けて柔らかくなり始めていた。時間の猶予は少なかった。職人は、かなり不自然な体勢のまま、冷静に状況を分析した。
職人は、腹痛に波があることに気がついた。「1,2,3,4...」。職人は痛みの波を数え始めた。波には規則性があった。「よし、13だ! 13の波ごとに、痛みが少し和らぐ!」。職人が、かろうじて見つけた痛みの規則性であった。職人は痛みの波を数えながら、14番目の間隙(かんげき)に狙いを定めた。「...12、13、よし、今だ!」。わずかな痛みの間隙をぬって、人差し指を押し込んだ。成功だった。ポルタレンは、おしりの穴、奥深くに挿入された。
最終兵器「ポルタレン」の効果は絶大であった。挿入して間もなく、腹痛はゆっくりとその度合いを下げていった。職人は胸をなで下ろした。だが、ポルタレンには強い副作用があった。強い眠気であった。痛みの和らぎとともに、強い睡魔が職人を襲った。職人は落ちるように眠ってしまった。
朝が来た。終焉(しゅうえん)はあっけなく訪れた。職人が目を覚ますと、激痛はすっかり消え去っていた。下腹部にわずかな筋肉痛が残っていた。激しい腹痛に耐えた腹筋の傷跡だった。すがすがしい痛みだった。職人は戦いを勝ち抜いた。七日間の戦いだった。ニューハーフ職人と腎臓結石との戦いは、幕を閉じた。
♪ヘッド○イト・○ールライト 旅はまだ終わ○ない...
(著作権の関係上...以下略)
(この物語は、事実を元に再編集したフィクションでございます)
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というわけで、この一週間、腎臓結石で苦しんでおりました。読者のみなさま方も、お体などお気をつけくださいませでございます。ではでは、次回をお楽しみに。名古屋薫でございました。
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