創作の世界だよ

2007/10/22

これから旅立つ人へ

若者は焦ってばかりいる
若者は気取ってばかりいる
若者は欲求不満で苛立ってばかりいる

若い人よ、どうぞ目標は高く持ちなさい
低い目標で譲歩するのは、
   人生の間口が狭くなった年寄りのやることです
広い可能性を秘めた若い人は、
   どうぞ、限りなく高い目標を持ちなさい

目標に突き進むということは、
   空中の城に続く透明な階段を、手探りで登るようなものです
登っても登っても目標は近づかない
それは、ひとつ階段を上って賢くなると、
   さらに高い目標が見えてくるから

先の見えない不安で焦り
背伸びしたい自尊で気取り
思い通りにならない現実で欲求不満を募らせる

真綿の中で身悶えするような、そんな手応えの無いその時が、
   人生でもっとも手応えが有ったと感じるその日が来る

だから、目標は高く持ち続けなさい

高い目標と欲求不満は表裏一体の同じもの
だから、欲求不満を上手に昇華させていきなさい
ウラ側を自分のこととして受け入れたとき、
   オモテ側の青い鳥のさえずりは、すでに聞こえ始めているはず
欲求不満を他人のせいにして合理化させてはいけません
   自分と向き合わない臆病者を、青い鳥は嫌ってしまいます

目標は高く持ちなさい
そして、彷徨(さまよ)いなさい
靴の中に小石の入った彷徨いの一歩ずつが
必ず、血となり、肉となるのですから

だから、目標は高く持ち続けなさい

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2006/04/01

純粋とは

今回は、ワタクシの言葉ではございません。
『女王の教室』というドラマの中の一節でございます。

-------------------------------------------------------------------------
  純粋すぎる生き方は、周囲にとっては迷惑なものなの
  ときには周りの人を傷つけることもあるし

-------------------------------------------------------------------------
      (『女王の教室』エピソード1〜堕天使〜より)


純粋さが人を傷つける……
なかなかに哲学的でございます。


純粋とは、よく研がれたナイフでございます。
鋭いナイフほど、ほとんど力を必要といたしません。
しかし、振り回すと心をズタズタに切り裂きます。

純粋とは、未来でございます。
心が枯れずにいられるのは、未来があるからです。
しかし、現実を直視しなければ未来は語れません。

純粋とは、真実でございます。
純粋とは、核心でございます。
純粋とは、理想でございます。
だから、純粋は輝いているのです。

純粋とは、でございます。
だから、純粋は苦しく、そして残酷なのです。


(他の物質との化合物だったり、ほんのちょっとの不純物が混じっていたり、世の中の諸々の物質って、純粋じゃない方が安定していたり性能が良かったりするんだよね。そして、人の心にも同じ事が言えたりとか……だから世の中って、多少の不純さを隠し持つことが“あたりまえ”だったりします。でもね、純粋な物には純粋な物にしかない良さがあったりするんだよね)

| | コメント (1) | トラックバック (0)

2006/02/21

親愛なるUSA様


  君って、つまずいたことがないんだよね

  つまずいたときの恥ずかしさを知らないから、

    鼻先がいつも上に伸びてばかりいる


  君って、追いこされたことがないんだよね

  追いこされるのを恐れてばかりいるから、

    自分の足もとを見つめることが出来ないでいる


  つまずいたほうが、歩き方は上手になるんだぜ

  靴底に刺さった釘は、立ち止まらなきゃ抜けないんだぜ


  ほら、君のことだよ、君の、

  Dear U.S.A.

(原爆や被爆者を題材にした短編映画、『マッシュルームクラブ』(スティーブン・オカザキ監督)が、アカデミー賞短編ドキュメンタリー部門にノミネートされました。本来、日米共同で制作されるはずだったこの映画は、米国内の反発により一時製作中止をよぎなくされました。これだけの年月を経ていながらも、アメリカでは“原爆”を真摯(しんし)に語れないというのは、悔しさと同時にわずかばかりの憤(いきどお)りさえも感じます。今回のノミネートを期に、この映画が少しでも多くの人の目に触れることを、願っております。)

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2006/02/19

緊急スクープ! お宝画像発掘!

Fi1140330531036t_0e緊急スクープ!

名古屋薫、12年前のお宝画像が発掘される!
今、明かされる、デビュー当時の面影!

かの名古屋薫のデビュー当時のマル秘写真が発掘されたもよう。信頼しうる情報筋によりますと、昨夜(平成18年2月18日)深夜、名古屋薫(自称32歳!?)は、以前務めていたショーパブ「サパーレスト つけもの」(名古屋市中区栄4 052-242-2096)に客として訪れたとのこと。

その際、店舗の古アルバムから見つかった名古屋薫の写真数点を、従業員の一人が名古屋薫本人に見せ、昔話に花を咲かせていたらしい。たまたま同店に来店していた当記者が、一枚をかすめ取ってこのたび緊急スクープとあいなった。

写真は名古屋薫が「サパーレスト つけもの」に入店して間がない頃、今から12年ほど前の画像である。写真に見える白い羽扇(はねおうぎ)は、後ろに立っている人の持ち物であり、名古屋薫(当時の名は芳美)自身は羽扇も頭飾りも持たされていない。そういったことから、新人としての店内でのポジションがうかがえる。

<サパーレスト つけもの 社長の談>
「いやあ、古いアルバムを整理していたら、たまたま見つけたんだよね。今度芳美ちゃん(名古屋薫)が来たときに見せてやろうと準備していたら、その日に来店したからビックリしちゃったよ。虫が知らせたのかな(笑)。ショータイムのときには、いつも笑顔を絶やさない子だったねぇ。」

<名古屋薫談>
「あーあ、慌てて全部隠したつもりだったけど、一枚だけ晒されちゃったよ。まったく、われながらすごい化粧だね。ゲジゲジ眉毛につけまつげ。お化粧下手は、ワタクシの伝統だね、コリャ(笑)。手の甲もなんだか男っぽいねぇ。髪の毛もまだ短いし。あー、おぼこい、おぼこい、やだ、やだ...」

<当記者 編集後記>
「名古屋薫さん、やだやだなんて言っておきながら、けっこう喜んでいるようすでした。きっと、文句言いながらも、この写真のことを気に入っているんでしょうね。そういえば、当記者がこの写真を入手したのも、偶然ではなかったような気がするんですけどね……」

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2006/02/14

風の中のスバ○〜 腎臓に石が出来たよの巻

朝、背中が痛んだ。腰痛かと思った。一日目が経った。二日目が経った。痛みは少しずつ強さを増した。背中だと思っていた痛みが、実は脇腹だった。病院で、あらゆる検査を受けた。「腎臓結石」、担当医は言った。愕然とした……これは、ある職人と腎臓結石との、壮絶な戦いのドラマである。

 ♪ジャン、ジャジャンジャジャンジャンジャジャンジャン〜
  風の中のスバ○ 砂の上の○河
  みんな○こへ行った 見送ら○ることもなく〜
  (著作権の関係上、一部伏せ字でお送りしております)

ある下町の町工場に、勤勉な職人がいた。職人の名は「名古屋薫」、ニューハーフであった。その日の朝も、普段通りにシャワーを浴び、髪の毛を乾かそうとしていた。

「ズーンッ!」

背中に鈍い痛みが走った。職人は持病の腰痛だと思った。コルセットを巻き、痛みが治まるのを待った。一日、二日と様子を見た。痛みは少しずつその強さを増した。「違う!」、職人は思った。いつもの腰痛とは痛みの場所が違った。左の腰の裏側、ちょうど腎臓のあたりだった。職人は若い頃、尿管結石を経験していた。痛さに思い当たるものがあった。次の日の早朝、職人は病院に駆け込んだ。

ニューハーフ職人には、病院の内科診察さえ壮絶なドラマであった。まず、受付で本当に自分の保険証かと疑われた。担当医には、「オシッコに血が混じってますが、最後の生理は?」と聞かれた。エコーの担当医は、「子宮が見あたらない」といってパニック状態に陥った。唯一CTスキャンの検査室では、何も起らなかった。だが、現像されたフィルムの封筒には、「♀」に大きな丸印が付けてあった。

その度に、職人は痛む横っ腹を押さえながら、「いえ、男ですから」と、か細い声で言った。しかし、生理を聞いてきた老医師は、「男ですから」と答えたにもかかわらず、「生理痛はひどい方ですか」と質問してきた。ニューハーフだということが、理解されていなかった。高齢の医師ではよくあることだった。

検査は、検尿・検便・エコー・CTスキャン・胃カメラと五種にもわたった。人間ドック並みの検査量であった。職人の病根を探り当てるため、体の隅々まで精査がおこなわれた。現代医学の最先端技術が結集され、手の空いている医師はみな「俺も力になる」と言って、助力を申し出た。病院が総力をあげた。検査は丸半日を費やし、すべての検査が終了したとき、担当医は職人に言った。

「腎臓結石ですね」

職人は愕然とした。予測していたこととはいえ、かつて経験した尿管結石の激痛が、脳裏に思い出された。さらに担当医は続けた。

「石が小さいですから、お水をたくさん飲んで自然排泄を待ちましょう」

「なんて消極的だ」。職人は思った。「これでは、いつ排泄されるか分からないぞ。長期戦になる!」。職人は覚悟し、病院を後にした。

職人が部屋に戻ると、友人のYが立っていた。「店はまかせろ。何とかする。しっかり休め」と言った。ありがたかった。Yは、手に提げていたコンビニエンスストアの袋を、黙って差し出した。袋の中にはお茶のペットボトル大瓶が二本、おにぎりが二つ、そしてヨーグルトが入っていた。友の気づかいだった。うれしかった。職人は男泣きした(?!)。

結石が小さく、痛みはそれほどではなかった。職人は痛み止めを飲みながら、じっと結石が降りていくのを待った。心がジリジリした。動きは大変ゆっくりであった。一日に数センチ。わずかずつではあったが、結石は確実に尿管を移動していた。職人は、ジワリジワリと動いていくその痛みを、左手でさすりながら、ただひたすら、待ち続けた。持久戦だった。二日間が過ぎ、痛みは下腹部の膀胱(ぼうこう)直前まで移動した。

「よし、もう少しだ、切り抜けるぞ」

職人は思った。

しかし、このとき、波乱が起きた。思いも寄らぬ、激しい腹痛であった。職人は戸惑った。慌てて痛み止めを服用した。「腹痛時に服用。一回一錠」。病院の処方で持ち帰った痛み止めだった。「まだ二錠残っている!」。職人は一錠飲んだ。数時間、様子をうかがった。薬は効かなかった。薬の使用間隔は最低四時間以上。職人は限度ギリギリで二錠目を飲んだ。「薬よ、効いてくれ!」。職人は祈るように待った。二錠目も効き目はほとんどなかった。むしろ、ますます痛みの強さが増していた。

「よし、アレを使おう!」職人は決意した。「ポルタレン」。坐薬(ざやく)だった。「本当に痛いときだけ使って下さい」。調剤士は薬を渡しながらそう言った。それほど強力な痛み止めだった。もし、このポルタレンが効かなかったら、もう使える薬はない。まさに、最後の手段だった。

職人はポルタレンを取り出した。激しい腹痛に耐えながら、職人はその坐薬をおしりの穴にあてがった。「よし!」。職人は指を押し込んだ。しかし、指は第一関節まで入って止った。力不足だった。腹痛のため、力が入らなかった。「だめだ。この位置では不十分だ。押し込まなくては!」。作業は困難を極めた。職人は焦った。

押し込もうとするが力が入らない。職人は、お尻の穴に人差し指の第一関節を入れた状態で、身動きが取れなくなってしまった。激しい腹痛に耐えながら、職人は考えた。「なにか方法があるはずだ。落ち着け!」。直腸内のポルタレンが、体温で溶けて柔らかくなり始めていた。時間の猶予は少なかった。職人は、かなり不自然な体勢のまま、冷静に状況を分析した。

職人は、腹痛に波があることに気がついた。「1,2,3,4...」。職人は痛みの波を数え始めた。波には規則性があった。「よし、13だ! 13の波ごとに、痛みが少し和らぐ!」。職人が、かろうじて見つけた痛みの規則性であった。職人は痛みの波を数えながら、14番目の間隙(かんげき)に狙いを定めた。「...12、13、よし、今だ!」。わずかな痛みの間隙をぬって、人差し指を押し込んだ。成功だった。ポルタレンは、おしりの穴、奥深くに挿入された。

最終兵器「ポルタレン」の効果は絶大であった。挿入して間もなく、腹痛はゆっくりとその度合いを下げていった。職人は胸をなで下ろした。だが、ポルタレンには強い副作用があった。強い眠気であった。痛みの和らぎとともに、強い睡魔が職人を襲った。職人は落ちるように眠ってしまった。

朝が来た。終焉(しゅうえん)はあっけなく訪れた。職人が目を覚ますと、激痛はすっかり消え去っていた。下腹部にわずかな筋肉痛が残っていた。激しい腹痛に耐えた腹筋の傷跡だった。すがすがしい痛みだった。職人は戦いを勝ち抜いた。七日間の戦いだった。ニューハーフ職人と腎臓結石との戦いは、幕を閉じた。

 ♪ヘッド○イト・○ールライト 旅はまだ終わ○ない...
 (著作権の関係上...以下略)

(この物語は、事実を元に再編集したフィクションでございます)


-----------------------

というわけで、この一週間、腎臓結石で苦しんでおりました。読者のみなさま方も、お体などお気をつけくださいませでございます。ではでは、次回をお楽しみに。名古屋薫でございました。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2006/02/05

一番大事なものはいつも直前に...

 多くの言葉を重ねるよりも、言葉を発する前の“息つぎ”が大事
 だって、息を吸った瞬間に、話す言葉を決めてしまっているのだから

 多くの愛情を与えるよりも、愛に目覚めたときの“ときめき”が大事
 だって、ときめいた瞬間が、いちばん純粋でいられたのだから

 あなたの顔が好き、あなたの心が好き、と人は言う
 けれど、時の移ろいに、ときとして言葉や心も色あせてしまうもの

 あなたと私が出会えたこと、ただ出会えたことだけを純粋に感謝したい
 だって、一番大事なものは、いつも“直前”にあるのだから


(歌手「平原綾香」さんのライブ番組を見ました。練習風景の場面で、息つぎに大変こだわる彼女の姿が映されておりました。本来ノイズとして忌み嫌われる息つぎの音、その息つぎにこだわる感性を見て、言葉を大事に歌う彼女の魅力のひとつをかいま見た気がします)

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2006/01/28

やさしさ

やさしさが相手を殺してしまったりします

逃げ込み場所を探している人は、簡単にやさしさのあなぐらに入り込んできます

そして、そのあなぐらから出られなくなります

いつしかやさしさ落とし穴になっていることに気がつきます

やさしさが相手を殺してしまったりします

やさしさという落とし穴には、ときどきフタをしてあげるのが思いやりです
 
 
 
(「神田川」という歌には、「ただ、貴方のやさしさが、怖かった」という歌詞があります。この歌詞の意味が分かったのは、本当につい最近です。)

| | コメント (1) | トラックバック (0)

2005/12/12

ヤッテモウタで創作ショート

とあるオフィスビルの一室、数人のオフィスレディがPCを前にして、ごく日常のありきたりな業務に従事していた。空調の効いたその部屋はほどほどに快適で、事務作業を行なうには完璧な環境だった。普通の日の、普通の昼下がりとして、その部屋の時間は淡々と過ぎていった。完璧な環境での作業はよくはかどったが、ただ、そのオフィスにはもう一つの完璧なものが存在した。それは、誤った作業が行なわれた場合の、重厚すぎるほどの警告であった。

「ア〜ア、ヤッテモウタ!」
あるOLがPCの前で叫び、しきりにキーボードを叩いていた。どことなくシガニーウィーバー似のそのOLの顔には、明らかな動揺を呈していた。何か重要な操作ミスをしたようである。OLの動揺に追い打ちをかけるように、突然けたたましいサイレンが鳴り響いた。と、同時に、オフィスの蛍光灯が消され、赤い照明が点滅し始めた。オフィスは一瞬にして急速潜行する潜水艦の内部のような、異様な緊張感に包まれた。非日常的な音と光が錯綜(さくそう)する中で、かのOLは何とか回復作業を試みようと、必死にキーボードを叩き続けた。

次の瞬間、そのOLが作業するPCの画面がブラックアウトした。その時、OLは事態が次の深刻な段階に突入したことを悟った。画面いっぱいにカウントダウンの大きな数字が表示されたのである。オフィス内には機械的な音声でアナウンスが流れた。もはや端末からの操作で行えることは、何もなくなった。

「書類○○は、あと△△秒で削除されます。キャンセル動作は□□秒以内です」
女性の完璧なアクセントによるアナウンスは、オフィスの喧噪(けんそう)にも関わらず、淡々と冷静に鳴り響いた。そして、残り秒数を確実に減らしながら、何度も何度も正確にくり返された。いつしか天井からはドライアイスの煙のようなものが降り注ぎ、オフィス内の空気はますます緊張感を高めていった。もはや潜水艦の急速潜行というよりは、むしろ宇宙船ノストロモ号の自爆直前の状況に酷似していた(映画『エイリアン』参照)。

シガニーウィーバー似のOLは、条件反射的にPCの背後に回り込み、裏板を外した。そして、音と光が錯綜する中、冷静にPC内部の制御板(?)を止めようと試みた。今、行え得る、唯一のキャンセル操作である。その直径3.5インチほどの円形の制御板は、非常に正確に表面処理され、その高速回転するさまは、誤操作した人間をあざ笑うかのように、冷たく光っていた。そして、その制御板停止作業の異様な難解さは、機械内部への人為的な介入に対して、PCが最後の抵抗をしているようであった。

「なかなか、制御板が止らない。なんて難しいキャンセル操作なの!」
OLの顔には、苦渋の色が浮かんだ。その間にも、アナウンスは正確にカウントダウンを実行していた。機械的な音声が、彼女の心をますます焦心させ、時が刻まれるということが、これほどまでに残忍なことであることを知った。制御板の回転数の低下と反比例して、OLの心拍数は高まっていった。心臓と精神力が、その限界に近づいたころ、やっとその制御板は動きを止めたのであった。OLは全身の力を抜き、大きなため息をひとつついた。しかしながら、アナウンスの声は正確でかつ冷酷だった。
「キャンセル操作は間に合いませんでした。キャンセル操作は間に...」
アナウンスの声に逆上したOLは、そのPCをひとしきり両手の拳で叩いた。そして、PCに突っ伏したまま次になすべきことを冷静に考えていた。おもむろに背後の戸棚に向かうと、中から(宇宙服ならぬ)今ハヤリの防災ずきんを取りだした。もはや慌ててはいなかった。冷静に、淡々と、確信犯的に行動していた。その動作には、なにかしら覚悟を決めたような重々しさがあった。

防災ずきんを被ったOLは、ゆっくりとサーバコンピュータの方へ近づいていった。「やめろ!」、「何をする気だ!」。周りの同僚が彼女に叫んだが、けたたましい騒音で、打ち消されるばかりであった。いや、もし彼女の耳にその同僚の声が入ったとしても、意を決して行動している彼女には、他の騒音と同じく、何の意味も持たない音の羅列でしかなかったことであろう。

OLは、サーバコンピュータのフロントパネルを開いた。コンピュータの内部には、人間がやっと一人もぐり込んでいけそうなスペースが空けられ、内側には、さまざまな色の光が、まるでクリスマスツリーの電飾のようにチカチカと光っていた。だが、その点滅する速さはクリスマスツリーの比ではなく、その点滅の向こう側で、激しい高速演算がなされているのが容易に想像できた。

OLは、おずおずと中に入っていった。中に入りきると、自動的にフロントパネルが閉じられた。密閉されたその空間には、外部の騒音が一切入り込まないような設計になっていた。オフィス内の喧噪とは裏腹に、サーバコンピュータの内部はまるで宇宙空間のように静かだった。そして、内部の壁一面に、アクリル板のような透明なメモリーモジュールが並んでいた。無数にならんだモジュールを眺めながら、OLはささやかな畏怖(いふ)の念を感じた。

畏怖、それは、電子機械文明が生み出した巨大システムに対する畏怖ではなく、これから自分が行なおうとしている最終手段の事の重大さに対する畏怖であった。人間が巨大電子システムの冷酷な仕打ちに対抗する最後の手段、それは、そのシステムの存在そのものを全否定することでしかなかった。端末での些細な操作ミスが、なぜこのようなシステムの全否定的行為に帰結してしまうのか? いささか不条理ではあるけれど、その不条理さへの推考など、そのOLには全く必要ないものであった。なぜならば、

“削除されるべきではない書類が、今、削除されかけている”
その事実だけで、彼女には十分であった。

冷たい無音空間の中で、OLは無数にあるモジュールを一枚ずつ引き抜き始めた。モジュールは少し引き出すと、あとは自然に最後までゆっくりと排出された。引き出すのには、ほとんど力は必要なかった。最も堅固に守られなければならないものが、最も柔軟に反応することを、OLは意外に思った。

「女性端末操作員B382号、何をしているのですか?」
空気が凍りついたかに思えた空間での、突然感じた音波の振動だった。サーバコンピュータの合成音声である。「何をしているのですか?」 サーバコンピュータは何度も問いかけたが、OLは黙々とモジュールを引き抜き続けた。引き抜かれるに従い、合成音声もその口調が変っていった。命令口調は懇願に変わり、子供言葉でのおねだりになり、最後には童謡を歌い始めた。最後のモジュールを引き抜くと、その細々とした童謡もメルトダウンしていった。まるで電源を落とされたテープレコーダのように……サーバコンピュータの停止である。

OLはちいさな密閉空間の中で脱力しきっていた。事の発端は、些細な操作ミスであった。端末の発する警告メッセージに、つい「はい」のボタンをクリックしてしまったのであった。もしあの「はい」のボタンが、いつもとは違う形であったなら、いつもとはちがう色であったなら、警告メッセージがもっと分かりやすかったなら、ヤッテモウタする前に気づいたかもしれない。OLは薄れていく意識の中で、あの最後のクリックを恨めしそうに反芻(はんすう)するのであった。

-  -  -  ○  -  -  -  ○  -  -  -  ○  -   -

今回は、例のあの証券会社のヤッテモウタ事件にインスパイアされ、有名SF映画を最大限にパクリまくって、だらだらと創作ショートを書いちゃったのでございます。ワンクリックで数百億円の損害とは、証券業界もなかなかに太っ腹なシステムを使用しているのでございます。あのクリックしちゃった社員の方、この先、非凡な人生を送られるのでございましょうね。数百億の損害などにめげずに、頑張ってほしいものでございます。

それにつけても、OS、特にWindowsの警告メッセージって、わかりにくくありませんか? さらに、警告メッセージ、普段から出し過ぎ。だから、本当に重要なメッセージに気づき難かったりしちゃうのでございます。これからはWindowsのことを、「オオカミが来たぞ少年的オペレーティングシステム」って呼ぶことにいたしましょう。

ではでは、今回は長くなっちゃいましたね。支離滅裂のまま、今回のメールマガジンを終わるのでございます。二ヶ月も休刊しちゃいまして、読者の方、お待たせしてゴメンナサイなのでございます。そんなワタクシが、今、メールマガジンとブログの平行配信を考えているのでございます。こんなムラッ気のあるオカマにブログなんて務まるのか! とお叱りを受けそうでございますが、まぁ、お手柔らかにお願いするのでございます。では次回をお楽しみに。名古屋薫でございました。

| | コメント (0) | トラックバック (0)