勇気とは、妥協・譲歩できることなのかも知れませんよ
今から19年前、「ミハエル・シューマッハ」というF1ドライバーがデビューいたしました。F1初戦ながら予選で7位という新人らしからぬポジションで本戦を迎え、本戦がスタートするやいなや、前をふさぐベテラン勢を驚異的な勢いでごぼう抜きしたのでございます。派手な追い抜き劇を披露した後、その派手なドライビングが災いしたのか、一周する事もなくコースアウトしてしまい、「0周リタイア」というのが彼のデビュー戦公式記録でございます。
このシューマッハの派手なデビュー戦には、まことしやかな裏話がございます。実はシューマッハは本戦ではほとんどガソリンを積んでなく、他のマシンよりも100kg以上軽い状態ではなかったかと。そう、軽いマシンならばごぼう抜き出来ても当然の事。そして派手なパフォーマンスを演じた後、コース外の砂の中に消えるのも予定の内。だって、完走するだけのガソリンは積んでいなかったのですからね。そう、すべてはデビュー戦で注目を浴びるためのシューマッハの演出だったという説でございます。事実、そのデビュー戦で注目された彼は、その直後に大手チームから引き抜かれる事になるのでございます。
さて日本ではここ1週間ほど前に、いろいろな人が自らコースアウトしておりました。自らの主義を押し通して罷免された瑞穂たん、責任を取って退陣した由紀夫たん、退陣する人に諭されて辞任した一郎たん。すべては出来試合という人もおりますし、いや偶然の成り行きだという人もございます。果たしてその真相は? 選挙を前にして、様々な人の様々な思惑が交錯しているようでございます。ご用心、ご用心。
さて、そのような流れの結果、新しくスタートしたのが「菅内閣」。その菅首相、「最小不幸社会」という言葉を掲げております。もうひとつの「奇兵隊内閣」ってのは全然意味が分かりませんけどね。多分、記者に質問されて、たまたま思いついた言葉を言っただけではないでしょうか。しかし、「最小不幸社会」という語は、ちょっと意味深な言葉でございます。というのも、この言葉は、ある経済学者の有名な理論を想起させるからでございます。
「最小不幸社会」、多少なりとも政治経済や哲学をかじったことがある方ならば、この言葉を聞いて「ベンサム」という経済学者の名前を思い浮かべることでございましょう。ベンサムの「最大多数の最大幸福」という考え方でございます。菅首相はSF小説からヒントを得たと言っておりますが、もしこのベンサムの言葉をもじって「最小不幸社会」という概念を考えられたとしたら、菅首相、ちょっと期待できるかも、なのでございます。
「最大多数の最大幸福」というのは、「国民の“幸福のトータル”が最大になるような良い方法(妥協案)を考えましょう」という考え方でございます。この考えには、「全ての国民が最大の幸福を得られるような“理想”は有り得ない」という大前提に基づいております。つまり、“幸福のトータル”というところがくせものでございまして、「ある少数の人たちがちょっと不幸を我慢することで他の大勢が大きく幸せになれるのなら、トータルの幸福は最大になる」ということも考えられるのでございます。この解釈は怖い一面を持っておりまして、「普天間の人たちがちょっと我慢してくれれば、日本中が幸せになれるじゃん」という考え方も成立してしまうのでございます。
まぁ、菅首相がこのベンサムの言葉をもじっていたかどうかは定かではありませんが、こういった経済学的な考え方が出来るというのは、ある意味“実践的な”政治家だと思うのでございます。経済学というのは“妥協点”を求める学問でございます。必ずどこかで“損”は出るものだという前提で損得の差が最大になる点を求めますので、結果には必ず何らかの妥協を含んでおります。政治だって、この妥協というのは必要だと思いますよ。「これはそちらに譲るから、こっちのを通してくれないかなぁ」というような駆け引きみたいなものがあってこそ、円滑に政治が進行して行くってもんでさぁ。自分の党の考え方以外は何ものも受け入れないという考え方は、ある意味「宗教」でございます。正教徒(与党)と異教徒(野党)との宗教戦争、日本の政治って、なんかこんな風に見えては来ませんか?
菅首相の「最小不幸社会」という言葉はベンサムの言葉とはちょっと意味合いが違ってきますが、経済学的な観点から「妥協・譲歩」という勇気を持てる政治が出来るのなら、ちょっと期待してしまうのでございます。首相自身も、「党派を超えて議論する必要がある」と言っているようでございますしね。というか、日本人てのは昔から、曖昧なところで互いに譲歩して話をまとめるというのは上手な民族だったはずなのですけどねぇ。マニフェストなんてものにこだわり始めてから、そのマニフェストが教典のようになってしまったのでしょうかねぇ。
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