戦争博物館をつくりませんか
はぁ、アツはナツいのでございます。毎年のことながら、名古屋の夏は大変に熱いのでございます。さてさて、熱いのは気温だけかと思っておりましたら、なにやら巷では総理大臣がドコドコの神社にお参りに行ったとかで熱くなっております。それを受けまして、ご近所の諸外国まで熱くなっております。そんな頭の熱くなった方々を、少しでもクールダウン出来ればと、今回はお送りするのでございます。
ニューハーフというお仕事をしておりますと、外国の人といっしょにお仕事をすることが多くございます。文化も違う、価値観も違う、それでもって会話による意思の疎通が十分に出来るわけではない。はっきり言って、こういった人たちといっしょにお仕事をするには、日本的な「空気読め」とか「言わなくても常識でしょ」といった考えは通用いたしません。誤解や勘違いを発生させないためには、「成文化されたルール」を取り決めることが必用でございます。ワタクシたち日本人は、自分たちが思っているほど外国人に理解されてはいないのでございます。
で、巷で話題になっている某サンパイ事件でございます。日本人であればこそ、某神社の歴史的背景や、戦犯、東京裁判といったことに多少の知識がございます。そういったものを全部ひっくるめて、「俺たちの気持ち、分かってくれよ!」という気持ちにもなるのでございましょうが、諸外国にはそんな知識がございません。諸外国にとって某神社は単なる戦争責任の象徴であり、そして「(神社に)行った」という事実だけが伝わる。つまり、日本の首相が参拝するということは、諸外国からみれば「ドイツの首相がカギ十字のワッペンを胸につける」のと同じなのでございます。諸外国の日本に対する認識なんて、そんなものでございます。
さて、堅苦しいお話しはこのぐらいにしましょうか。実は先日、所用で韓国へ行ってきたのでございますが、仕事の合間をぬって、ソウル市内にある「戦争博物館」というところへ行ってきたのでございます。今回はその博物館を紹介するとともに、ワタクシの戦争論(もどき)を、チョコッと僭越(せんえつ)ながらお話ししてみるのでございます(難しい話はしませんから、どうぞご安心を)。
まず、その戦争博物館の紹介からいたしましょう。まぁ、とにもかくにも、立派な施設でございます。広大な敷地を実に贅沢に使って博物館および各展示物が配置されております。非常に管理の行き届いた公園という感じでございます。敷地内に入りますと、まず巨大な像が目に飛び込んでまいります。兵士と少年が抱き合っている像でございます。この像は、実に感慨深い展示物なのでございますが、その詳細は文章の最後に記すといたしましょう。
さて、さらに奥へ入っていきますと、屋外の展示場に様々な兵器が陳列されております。レプリカではなく“実物”でございます。航空機などもその巨大な機体がデーンと広大な敷地を利用して置かれております。そして、そのほとんどの陳列物は触ることができ、さらに内部に乗り込める陳列物もございます。まったく、兵器マニアにはたまらないでしょうね。ワタクシは決して戦争を賛美するわけではございませんが、メカニカルな物の“機能美”は大好きでございます。炎天下の中、玉のような汗をしたたり落としながら、つぶさに拝見させていただいたのでございます。
みなさま方、本物の武器に接するというのは、実に重みがございます。映像や写真で見るのとは違った重みが有るのでございます。「本当に人を殺す能力を持った武器」、あるいは、「かつてこの武器が、何人(何十、何百?)かを殺してきたのかもしれない」、そんなことを感じさせる重みでございます。戦争を賛美するとか否定するとかの問題以前に、本物の武器に触れるということは、実に有意義なことでございます。映画やドラマといったバーチャルな戦争イメージにはない、“本当の戦争の一断片”がございます。
屋内展示物の方も立派でございます。展示スペースも広く、ゆったりと配置され、やはり展示物のほとんどは“実物”でございます。非常に精巧なつくりの巨大ジオラマも多数ございます。この多くのジオラマのすばらしさは、美術的価値をうかがえるほどでございます。そして、陳列物にはハングル・英語・中国語・日本語などで解説文が併記されておりますが、とにかくヴィジュアルに訴えるような陳列方法に徹しております。たとえ解説文が読めなくても、視覚的にドンドン興味をそそられるのでございます。陳列物の作製には、大変な手間ひまと費用がかかったことでございましょう。これで、入館料3,000ウォン(約380円)とは、まったく“お値打ち”なのでございます。
内容も多岐に渡っております。原始時代の石槍から近代戦争でのガスマスクまで、おそらく韓国の戦争史ほぼ全般に関して網羅していると思われます。その中でも、いちばんのスペースを割いているのは、「朝鮮戦争」に関する展示でございます。解説が分からないので漠然とした印象ではございますが、その力のこもった多くの展示物からは、「同じ民族同士が戦わなければならない悲哀さ」を感じたのでございます。思うに、ワタクシたちの日本も、もしひとつ間違ったら、第二次大戦後に分割の憂き目を見たのかも知れなかったのでございます。韓国やドイツやベトナムといった国々と同じ運命を、この日本も辿(たど)ったかも知れなかったのでございます。ワタクシたちは、自分たちの今までの運命に対して、もっともっと、感謝すべきなのかも知れません。
この戦争博物館を親子連れで訪れる方がいらっしゃいましたら、ぜひぜひ、必ず、子供さんに見せて頂きたい展示物がいくつかございます。まず、3階に「戦争体験室」というのがございます。今回は調整中のためワタクシは体験できなかったのでございますが、とにかく頭上を弾丸が飛びかうような、非常にリアルで迫力ある体験ができるそうでございます。もうひとつ同じ3階に、避難民の生活を“実物大”で再現した巨大ジオラマがございます。これがまた、超リアルなのでございます。かなりのスペースを割いて作製されたジオラマの中を歩いて行きますと、本当に自分が避難民のキャンプの中を歩いているような、薄気味悪い錯覚に襲われます。と同時に、もし戦争が始まると、こんな生活を強いられるのだと実感を、非常に生々しく感じるのでございます。
ロッテワールド(ソウル郊外にある巨大テーマパーク)に連れて行けと子供がせがんだら、この戦争体験室と避難民のジオラマを先に見せれば、子供さんブルーになっておとなしくなり、親御さんは手間いらず……というのは冗談でございますが、ぜひぜひ、人生のなかで一番感受性が鋭くなる幼少の時期に、こういったものを見せてあげて欲しいのでございます。そのときは、「戦争ってかっこいい」と感じるかも知れません。「避難民て汚いな」と言うかも知れません。たとえもし幼少の頃にそのような感想を持ったとしても、青年期になったとき、そして大人になったときに、幼少期でのこのような体験が必ず生きてくるはずでございます。感受性豊かな子供たちを、ゲームなどのバーチャルな戦争イメージから守る“予防接種”だと思って、どうか見せてあげて下さい。ワタクシたちの未来を作るのは、その子供たちなのでございますから。
ワタクシは、つくづくこのような戦争博物館が日本に存在しないことが残念でなりません。小さな展示館やメモリアルは数多く存在しております。しかし、すべてを網羅し、普遍的、客観的に展示した戦争博物館はございません。首相の参拝、憲法第九条の解釈、A級戦犯等々、戦後から半世紀以上を経ているにも拘(かか)わらず、まだまだ多くの議論が飛びかいます。飛びかうということは、成熟していないということでございます。ワタクシたち自身でさえ成熟していない問題を、諸外国に理解してもらえるわけがございません。「いい人にめぐり会いたければ、まず自分を磨く」、ワタクシがいつも主張している言葉でございます。諸外国とのいい近所づきあいをするためには、ワタクシたちはもっともっと“自分たち”を知る努力をしなければいけないのでございます。そこで、普遍的、客観的な視点での戦争博物館が必要だと、思うのでございます。
戦争というものは、当事国同士の共同責任でございます。もし平和に暮らしている人達をいきなり襲ったのであれば、これは戦争ではなく犯罪です。そうではなく、お互いの言い分や事情があり、その解決手段として発生してしまうのが戦争でございます。ですから、普遍的、客観的な博物館には、相手国の言い分も展示するべきでございます。やったこと、やられたこと、それらを平等に展示するべきでございます。ゆえに、展示物の監修には関係諸外国から研究者を集めた“国際監修者チーム”が必要でございます。価値観の違う人同士が分かり合うためには、「ひとりよがり」ではいけないのでございます。
さらに、戦争というものには、「左」とか「右」とか、いろいろな考えを持った人がいらっしゃいます。そんな様々な人達も、みーんなひっくるめて展示しちゃえばいいのでございます。左のどんな人達がいてどんな活動をしているか。右の人達はどうか。どんな思想を持つかは個人の自由であり、様々な思想があるからこそ、ワタクシたちは反省し進歩していけるのでございます。もちろん結論など出るはずがありません。だって、結論なんて何百年か何千年後にしか出ないのでございますから。結論よりも、「すべてを網羅する」ということが大事なのでございます。
ワタクシたちにできるのは「過去や現在を、ありのままに見せる」、ただそれだけであり、それがベストでございます。解釈し判断するのは、それを見た小さな子供たちでございます。差別も偏見も持たない小さな子供たちだからこそ持ち得る感性というものがあるのでございます。世の中には“言葉遊びでお茶を濁す大人の議論”が飛びかっていますが、大人が言葉遊びをしているうちに、子供たちはどんどん無関心になり、夢を失っております。子供たちが目を丸くして見入るような展示物が並んでいる、そんなすばらしい戦争博物館を、誰か作ってくれないでしょうかねぇぇぇ。
というわけで、今回はちょっと力が入って長くなってしまいました。そうそう、ソウルの戦争博物館での、兵士と少年が抱き合う像のお話をしなければいけませんね。その像の台座をふと見ると、兵士と少年を分かつように大地が割れているのでございます。そして、その像の題名を確認すると、そこには「兄弟」と記されておりました……
-------------------------------
【戦争博物館】
http://www.warmemo.co.kr/
(英語ページあり。博物館現地には日本語パンフレットもあります)
(※2009年11月現在、日本語ページも用意されているようです)
(今回いろいろ資料を漁っていたら、こんな映画を見つけました。参考までに)
【父親たちの星条旗/硫黄島からの手紙】
http://wwws.warnerbros.co.jp/iwojima-movies/
| 固定リンク


コメント