一世一代のネガティブフィードバック
愛知万博が順調そうでございます。アンデス共同館も、本日、50日遅れで開館したそうでございます。しかし残念なことに、ほんの一部の外国人スタッフの中で、バックレる(トンズラ)人がチラホラ出てきているそうでございます。いろいろ事情があるのでしょうが、外国からいらっしゃったスタッフの方も大変でございます。開幕当初、非常に厳しい手荷物チェックを入場者にしておきながら、スタッフの逃亡を許してしまうというアンバランスさ、万博運営の難しさの一面でございます。
さて、前回のメールマガジンでは、「急ぐときほどゆっくり」と申し上げました。急ぐときほどゆっくり――何とも漠然としたワケワカラン言い方でございます。実は、この“あえてゆっくり動く”という行動パターンには、緻密なメカニズムがあるのでございます。今回は「ゆっくり急ぐ」の名古屋薫流講釈でございます。
人間というもの、緊張するとアップテンポになるのでございます。アップアップするという言葉もございますように、テンションがあがりますと、自分でも気がつかないうちに、物言いや立ち振る舞いが早回しになるのでございます。そうしますと、普段のテンポなら余裕で出来ていたことが、早回しのために思考速度や運動神経が追いつかなくなり、間違いをしでかす。つまりここに、「忙しい→無意識に早回し→限界超える→やってもうた(小さなミス)→ますます忙しくなる→ふりだしに戻る→大きなミス」という悪循環の図式が成り立つのでございます。
さあ、この悪循環アップアップサイクルを断ち切るには、前述の図式の2番目「無意識に早回し」の時点に注目でございます。忙しくなって早回しになり始めたら、「ゆっくり、ゆっくり、確実に行こうぜ」と自分に念を押すのでございます。結果的に、「早回しベクトル」と「ゆっくりベクトル」が打ち消すかたちとなり、気持ちは焦りつつも行動スピードはいつも通りのマイペースということになるのでございます。よく言われるところの「ネガティブフィードバック」というやつでございます。世の中の、ほとんどの制御回路に使われているこの仕組みを、人間様が使わないのはもったいないのでございます。
しかしながら、いくらマイペースが確実とは言え、忙しいときに急がねばならぬときもございます。そのようなときには「ポジティブフィードバック」でございます。忙しくなったら自分を早回しにするのでございます...って、最初の悪循環アップアップサイクルとはどう違うのかって? それは、自分の限界点を意識しつつコントロールされているという点でございます。当然、通常動作時に十分な余裕をもって行動している人でなければ難しいです。また、限界を超えないために、ネガティブフィードバックとの併用が必須でございます。いやむしろ、心の中にポジティブフィードバックしか持ち得ない人というのは、単なる“暴走”でございます。
以上のフィードバックというもの、これは、何か変化が表れたらそれに対応するという“後手”の手法でございます。しかし、世の中は先手必勝、先手を打つ「フィードフォワード」という技術もあるのでございます。つまり、忙しくなるのをあらかじめ予測して、それに合わせて前準備をしたり、テンポアップをしておいたりといった行動でございます。未来を予測するわけでございますから、制御回路などでも、このフィードフォワードというのは、なかなかに高度でございます。人間様でも同じこと。このフィードフォワードを実行するためには、多くの経験の蓄積が必要なのでございます。球技や格闘技に分類されるスポーツなどは、このフィードフォワードの固まりのようなものでございます。
さてさて、以上が「ゆっくり急ぐ」のメカニズムでございます。ひとえに、ゆっくり急ぐとは「己を知る」ということでございます。自分の得手・不得手、限界点などを十分知り尽くしていれば、忙しくなっても慌てなくてすむということでございます。心が慌ててなければ、マイペースを維持するのも、限界ギリギリまで行動するのも自分の想定の範囲内でございます。そして、すべての基本はネガティブフィードバック。もし想定の範囲外の出来事に遭遇したのなら、とりあえずネガティブフィードバック、つまり、「まず、落ち着け」でございます。
この「己を知る」ということ、ほかにも応用例がございます。たとえば、ミスをして、いつも「自分は物覚えが悪いんですよ」と言い訳をする人がいたりします。せっかく「物覚えが悪い」と自分のことを知っているのだから、メモを取ればいいのでございます。世の中のいわゆる「物覚えのいい人」というのは、ただ単にメモの取り方が上手なだけかもしれませんよ。
また、同じ間違いを何度もする人がいたりします。こういった人は、間違いを犯しそうなポイントで、振り返るなり読み直すなり、「確認する」という動作をすればよろしいのでございます。世の中のいわゆる「ミスの少ない人」というのは、この確認するという動作を無意識のうちにやっているだけなのかもしれませんよ。
そしてさらに、前述のネガティブフィードバックとポジティブフィードバックは、動作の制御だけでなく、「心の制御」に使われたりもするのでございます。上司が部下の問題部分を指摘して、それを改善するような気持ちにさせるネガティブフィードバック。また、部下がよい結果を出したときには、それをステップにしてさらに上の目標への意欲を起こさせるポジティブフィードバック。これらすべては、自分はもとより、他人の長所・短所、得手・不得手が分かっていないと難しいものでございます。まさに、己を知り、他を知る、でございます。
生意気なことをさんざん申し上げてまいりましたが、不測の事態に際して平常を維持するというのは、なかなかに難しいものでございます。まだワタクシがニューハーフになる以前のこと、「あしたからニューハーフのお店で働くからね」と突然母親にカミングアウトした際、ワタクシの母親は、「アッ、そう、分かりました」と返事をしただけでございました。そのときの母親が、一世一代のネガティブフィードバックで平静を装ったのか、あるいは、母親の持つ天性のフォードフォワード能力で、息子の異変をあらかじめ予測していたのか、それは、今となってはもう分からないことでございます。
ゆっくり急ぐということ、勝手な解釈でドンドン書きつづってまいりましたけど、少しでもみなさま方の生活のお役に立てれば幸いでございます。それでは、今回はこのへんで。では、次回をお楽しみに。名古屋薫でございました。
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