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1999/05/13

女装は趣味でやるのが一番

 はてさて、まったくもって月刊誌に成り下がってしまった名古屋薫のShe-Mailでございます。数々のお叱り、催促、励まし、罵詈雑言を頂きながらのShe-Mail最新号でございます。やっと歌舞伎町への引っ越しも完了し、名古屋薫はただ今新宿歌舞伎町の住民なのでございます。住民票だってちゃんと歌舞伎町に移したかんね。まあ、人によっては「歌舞伎町なんて人間が住めるの?」と思われる方もあるでしょうね。私だって、名古屋に住んでいた頃は歌舞伎町に人が住んでいるとは思いませんでしたから。ところがどっこい、名古屋薫は宇宙人なのでございます。従って、歌舞伎町に住むことなんかヘナチョコノパーなのでございます。皆様方、どうか安心してくださいませ。歌舞伎町と言えば、ちょっとおかしそうな人が包丁を持って走り回っていたりとか、人が殺されて路肩に真っ赤な出血の後が残っていたりとか、まったく退屈しないところでございます。宇宙人名古屋薫(注1)にはもってこいなのでございます。

 さあ、今回のテーマは「女装は趣味でやるのが一番」です。私のところへは多くの方からお悩みの相談メールを頂きます。その中でも特に多いのが「私もニューハーフになりたいのですが」といった類のお悩みなのでございます。最近は幸か不幸かニューハーフも市民権を得てきて、ニューハーフとパンピー、おっといけない失礼、ニューハーフと一般ピープルとの敷居が低くなってきております。また、ニューハーフといった魑魅魍魎(ちみもうりょう:要するに妖怪のこと)を好きこのんで採り上げるマスメディアもまだまだ多うございます。よって皆様方気軽に「私もニューハーフになれるかな」なんて思ってしまうのでしょうね。今回はそういった方々に送る名古屋薫からの笹屋かな??おっと間違い、ささやかな“ニューハーフ予備軍に贈るバラード”なのでございます。パチパチパチパチ。

 まず、最初にハッキリハッキリ断っておきましょう。ニューハーフに関してゼッタイゼッタイ言えることは“ニューハーフなんて儲からない”ってことでありんす。大箱(お店の規模が大きいということ)のゲイバー・ニューハーフバーでは毎週一本ぐらいの「面接」の電話がかかってくるものです。もちろんベテランニューハーフや経験者からの電話もあるのですが、「とにかくニューハーフになってみたい」という切羽詰まった方からのお電話も結構多いのです。しかしながら、そういった方に実際に面接に来ていただくと、まあよくありがちなこととして「スッピンで来る」「仕草に女っぽさのかけらもない」ということなのでございます。中には‘今までにお化粧をしたこともない’などど宣(のたま)う言語道断の方もいらっしゃる始末。もっとも、そういった方がまだ10代のうら若き前途有望な若者であるならば「何とかいたしましょう。私がひとばだ脱ぎましょう。私、脱いだら違うんです」という気にもなるのですが、20代後半あるいは30代に入っていらっしゃったりすると、「あいすみません、お引き取りいただけますか? 現在の地位と名声をお捨てになってまで始めるだけの価値はニューハーフには有りませんよ」ということになっちゃいます。

 きっと、ニューハーフの世界って華やかでお金が儲かりそうな雰囲気が有るんでしょうね。でもね、例えば音楽家や役者を目指している人ならば、まず最初は独学で勉強を始めるのが当然ですよね。ニューハーフのお店に入店すれば一から十まで手取り足取り教えてくれると思ったら大間違いなのでございます。まあ、若くて素質が有るなと思える子の場合は手取り足取り教えちゃったりします。残念ながらニューハーフの世界も「才能」が優先してしまう世界なのでございます。

 また、男性は皆、先天的そして潜在的‘変身願望快楽主義者’なのでありんす。リュージュをひいて美しなった「鏡の中のボク」にウットリするなんてことは大なり小なりほとんどの男性が持っている物なのでございます。特に最近の若人(注2)は、ルックスが女々(めめ)しく、もとい、女っぽくなっていらっしゃいますので、ちょっとお化粧したりすると、もうこれはこれは女っぽくなっちゃったりするのでございます。ところがどっこい、ニューハーフが生きていくのは荊(いばら)の道。生きていく一歩一歩が足の裏に突き刺さる棘(とげ)の痛みとの戦いなのでございます。鏡の中の自分に「フー」となっているような方はどこかで挫折してしまう可能性が高いのでございます。これは、水商売をするしないに関わりません。ニューハーフとして生きていくことそのものが苦しいのでございます。

 だって、最近はニューハーフが市民権を得てきたとはいうものの、やっぱり世間一般から見れば「女装」という扱いを受けてしまいやすいのです。夜の世界ならばキャラクターの持って行きようで要領よく自分を売り込むことも出来ましょう。しかし、もし昼間ニューハーフとして生きていくとしたら、これはもう完全に世間様を騙さなくてはなりません。中途半端なことをしていたら簡単に“社会生活不適応者”というレッテルを貼られてしまいます。そしてまた、昼間の真面目なお仕事はニューハーフだからといって甘やかしてはくれません。仕事の面では他の健常者(?!)と同じかそれ以上の能力を示さないと居場所が無くなったりしちゃうのです。ある意味でニューハーフにとって昼間の世界は夜の世界よりも厳しい世界なのかも知れません。

 要するに、ニューハーフは‘ニューハーフというライフスタイル’を好きでなければつとまりません。ニューハーフとして生きていくことが楽しくてしょうがないという人でなければニューハーフってどんどん苦しくなります。そしてそのライフスタイルをエンジョイしているという前提の上で、もし水商売であるならば、“ニューハーフという「お仕事」に染まれるか”ということ、また一般生活であるならば今度は“ニューハーフというハンディを背負いながら一般人と戦うだけの気構えがあるか”といったことを要求されちゃうのです。

 そこで、全国のニューハーフ予備軍の方々に開眼の辞、啓蒙の言葉を授けましょう。心して聞くように。それは...

『女装は趣味でやるのが一番!!』

ということなのです。これってきっと音楽家や画家の人にも言えるのかも。音楽や絵画も「好き」でやっているうちは楽しいのでしょうが、いざ「売らなきゃいけない、売れなきゃ食っていけない」という状態になったときにはきっと一般ピープルには理解し得ない苦しみがあるはず。ニューハーフだって同じなのです。そう考えるとニューハーフになるって、どこか芸術家を志す人の道と似ているかも知れません。かつて芸術の道を目指し、今はニューハーフとして黙々と社会にとって何の実益にもならないことを飽きずに繰り返しているこの名古屋薫が言うのでありますから、これはきっと間違いないはずなのでございます。

 しかし、中には前途有望な方々もいらっしゃることと思します。さてそこで、有望なニューハーフ予備軍の条件といたしましては、まず「才能」があるか無いかが重要なことになっちゃいます。この才能の中には「男が好きかどうか」ってことも含まれちゃいますし、生まれもった体格や容姿ということも重要なエレメントになるのでございます。もっとも、多少のハンディキャップは努力で克服しちゃう秀才タイプも数少ないけれども存在いたします。才能がないからってメゲないようにしてくださいませ。そして次に重要な条件といたしましては「年齢」。どんな芸術でも早く始めるに越したことはありません。遅くなればなるほど失った若さを努力で取り戻すことになります。遅くデビューしたニューハーフほど他人の何倍も努力しなくちゃならなくなります。もしニューハーフになりたいと思っていらっしゃるのならそのニューハーフという言葉を音楽家とか役者といった言葉に置き換えて考えてみてはどうでしょうか? ささやかな秘密を持ちながら一般ピープルとして生きていくのもよいでしょう。また、あえて荒波の中に身を投じ人生を棒に振る(?)のもよいでしょう。人間なんてどう転んでも後悔するように出来ているのです。同じ後悔するのなら精一杯生きましょう。中途半端な生き方で後悔するというのが一番悔しいものです。同じ後悔をするのなら力の限りを出し尽くして後悔いたしましょう。

 さて、話は佳境に入って参りました。ここまではニューハーフ予備軍に捧げるバラードでございます。ここまで読まれて「あたしゃニューハーフになりたいなんて、これっぽっちも思っちゃいないよ。どうしてくれるんだい」なんて思われた方もいらっしゃるでしょう。ここからはそんな方々へのバラードでございます。実際のところ、私の元へは別にニューハーフになりたいというお悩みの相談だけではないのでございます。お仕事の相談や恋愛の相談など、人生の様々なお悩みごとをみなさんから承っているのでございます。そういった方々に私が共通してアドバイスすることが一つあるのでございます。それは...

『自分を大切にする』

ということなのでございます。この自分を大切にするって言葉、未だに名古屋薫は会得しておりません。簡単そうで実はトッテモ奥の深い言葉なのでございます。ではこの難解な言葉、私なりに講釈してみましょう。

   「あの人の気持ちが私の方を向いてくれない」
   「お仕事に生き甲斐を感じられない」
   「私って誰かの役に立っているの?」

 そもそも人間なんて悩むためにこの世に出てきたようなものなのでございます。生きていれば悩み事なんていっぱい沸いてくるのでございます。しかしながら、人間悩んでいる時って気持ちが外へ外へと向いている物なのでございます。どういったことかお分かりになるでしょうか?

 人の気持ちを自分の方へ引っ張ろうとするから自分の居る位置を見失ってしまう。人と比較するから自分が虚しくなる。自分を外側からばかり見てしまうから、内側の自分に気が付かない。分かりますか? 悩んでいる時ほど自分の気持ちって外へ外へと向いているんです。

 そんなときは気持ちを内へ内へと持っていきましょう。でも、自閉症を尊重したりはしちゃいませんよ。自分の心を見つめるのでございます。人がどうであろうと、社会がどうであろうと、とにかく“ご自分を磨くことに専念する”のでございます。自分を磨こうと脇目も振らず努力している人はとにかく美しいものなのです。そんな美しい人ならばきっとすばらしい人が近づいてくるに違い有りません。そんな力強い人ならば今は気づいてくれなくてもきっと誰かが遠くから見ていてくれているはずです。そんな輝いた人ならば、存在するだけで多くの人の役に立っているはずなんです。

 それでは、自分を見つめるってどういうこと? 自分を磨くってどうすればいいの?...

“自分を美しくしようと思ったら、美しい物に触れていればいいのです”

 美しい絵画をいっぱい観ましょう。理解できなくってもいいんです、本物を目の前にして、ただ感じるだけでいいんです。そしてあらゆるジャンル、あらゆる国、あらゆる時代のすばらしい音楽をいっぱい聴きましょう。そうすればどんな波動にも同調させられるような柔軟な心を持てるようになるでしょう。そして貪(むさぼ)るように多くの小説を片っ端から読みましょう。そういった小説の中には様々な人たちの美しい人生、理想の生き方(注3)が示されているからです。理想を持てるから現実を語ることが出来る。心が外側へばかり向いて自分の周りの現実ばかりを見つめていると、自分の心の中に作るべき理想の姿を忘れてしまうのです。理想というのはどちらへ歩き出せばいいのかという風見鶏のようなもの。風見鶏を持たない心は悩んでしまうのは当たり前なのです。

 少しでも多くの美しい物に触れて、自分がそれに近づきたくなると思う。それが自分を磨くことであり、自分を美しくすることであり、自分を見つめるってことなのです。“自愛”という言葉がありますが、まさに自分を愛すること、自分を愛して自分を磨いていくことが“自分を信じる”ということなのではないでしょうか。自分を信じていらっしゃる方は一本筋金が通っていてなかなかヘコたれません。多少の悩み事が発生しても、ご自分の心の美しさが支えてくれるはずです。もし「ニューハーフになりたい」なんて危うく人生を棒に振りかねないお悩みにとりつかれてもきっと決断を誤ることがないはずです。美しいものにいっぱい触れて、自分が歩んで行くべきすばらしき理想像をお持ちならば、小さなことに悩んで振り回されている自分がばからしく思えてくる。このように生きるのは難しいけれど、これが「自分を信じる」という言葉への名古屋薫流の講釈なのです。

 さーて、さんざん生意気なことを言ってしまいましたでございます。こんな生意気なことを言っていると、「じゃあ、どうしてメールマガジンがいつの間にか月刊誌になっちゃっているんだ」とか「ホームページがちっとも更新されないが本当に努力しているのか」とかいったシュプレヒコールが聞こえてきそうでございます。まさに、両刃の刃とはよく言ったもので、天に唾を吐くとその唾が全部自分の顔に降りかかってくるのでございます。でも、そこは宇宙人の名古屋薫。自分のことはサッサと棚に上げて、言いたいことをさんざん言って逃げを切るのでございます。ぼやぼやしていると天に吐いた唾が落ちてくる気配。急いで退散することにいたしましょう。それではこの辺で今回はサヨーナラーなのでございます。読者の皆様方、長らくお待たせいたしました。バッハハーイ!

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(注1)宇宙人
 メールマガジン発行後、ある方から「宇宙人でなければやっていけないという風に聞こえる」といった感想を頂きました。宇宙人でなければやっていけないと言うよりも、何が起こっても気にならない宇宙人のような人が集まってくる街、それが歌舞伎町なんじゃないでしょうか?

(注2)若人
 この場合は「わこうど」と読んで下さい。魚(な)コードという商品名の延長コードがありますが関係有りません。

(注3)理想の生き方
 「すべての小説が人間の理想を描いているわけではない」というご指摘も何人かの方から頂きました。正にその通りです。小説というものは「実際はいい加減だけれど、日記にはこう書いておこう」とかいった理想とか、「こんなつもりじゃなかったのに、グスン」といった現実とかが書かれています。そして、その理想と現実両方を認識することがもっとも大切なのでございます。だからこそ、小説などは片っ端から読みましょう。食べ物も芸術も偏食はいけません。

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